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最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)250号 判決

上告人

宮沢金吾

被上告人

清水金一郎

補助参加人

倉石佐兵衛

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点および第三点について。

自己の権利に属さない他人の有する債権を他に譲渡し、その債権の債務者に対し確定日附ある譲渡通知をした場合にも、原審認定のような事実関係のもとにおいては、その譲渡人に右債権が帰属するとともに特別の意思表示を要せず当然に右債権は譲受人に移転し、その後譲受人は右譲渡通知をもつて民法四六七条二項の対抗要件を具備したものというべく、以後これと両立しない法律上の地位を取得した第三者に対し右債権譲渡を対抗できるものと解すべきであるとした原審の判断は正当であつて、原判決は所論の違法はなく、論旨は採用しえない。

同第二点について。

所論指摘の原審の判断は、傍論であつてその指摘の違法があつても主文に影響がないこと明らかであるから論旨は理由がない。

同第四点について。

上告人が補助参加人の参加について異議を述べずに弁論をしていることは本件記録上明らかであり、したがつて上告人は民事訴訟法六七条の規定により参加について異議を述べる権利を喪失したというべく、論旨は採用しえない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎)

上告人の上告理由

第一点 原判決には判決主文に影響を及ぼすべき法令違背がある。

〈前略〉 一方須田きみは遅くとも昭和三八年一二月五日までに本件債権を補助参加人に譲渡し、右同日付内容証明郵便をもつて被上告人にその債権譲渡の通知をし、そのころこれが到達したことが認められても、この債権譲渡は第一の差押、転付命令が適法に発付送達されこれによつて上告人が本件債権を取得しこれを保持しているときになされたものであるから須田きみは債権者ではなかつたものであるし譲渡するべき債権を有していなかつたものである。かような債権譲渡は正確には債権譲渡ではないし須田きみは譲渡人ではないし補助参加人は譲受人ではないし被上告人は債務者ではないからこの場合適した名称ではないが仮定に便宜上、債権譲渡、譲渡人、譲受人、債務者としているのみであるから、このような仮定の債権譲渡は民法第四六七条第一項、第二項による保護の利益を受けることはできないものである。

さらに右の債権譲渡は譲渡人から譲受人に債権を譲渡する前に債務者に対しては実際に債権譲渡があつたように確定日付ある証書で通知しておいて後日実際の債権譲渡があつた場合には第三者に対する対抗要件をそなえる準備をしておくような方法は右法条第二項の法意に反するものである。そうとすれば後日実際の債権譲渡があつた場合には右のような債務者に対する確定日付ある譲渡通知では右法条第二項が定める第三者に対する対抗要件とはならないものである。

原判決は「上告人から須田きみに本件債権が譲渡されたときに前記須田きみの被上告人に対する確定日付ある譲渡通知の効力により補助参加人が上告人に優先して本件債権を取得した」と判断するが、右譲渡通知は上告人が第一の差押、転付命令により本件債権の債権者となつた後になされたものであるから、その後に上告人がその取得した本件債権を他に譲渡したからといつて、補助参加人が上告人に優先してその債権者となり得るものではない。この理は譲受人が元の債権者の須田きみであると、その他の第三者であるとによつて異なるものではない。

以上の理由からしても上告人は第二の差押、転付命令により補助参加人に優先して本件債権を取得したことが明らかである。〈中略〉

第三点 原判決は判決主文に影響を及ぼす法令違背がある。

原判決は「他人の所有に属する物の売買が適法である以上他人に属する債権についてもこれを目的として債権譲渡をなしうる」とし、この理をもつて須田きみと補助参加人間の本件債権譲渡は有効であるし、須田きみの被上告人に対する確定日付ある譲渡通知も有効であるからこれ等の効力により、須田きみが上告人から本件債権を譲受けると同時に補助参加人がこれを取得し、右の債務者に対する確定日付ある譲渡通知により第三者に対する対抗要件をそなえたから、上告人は第二の差押、転付命令によつては本件債権を取得できない。と判断している。

しかし不動産の所有権移転は譲渡人が譲受人に対し所有権移転登記をすることによつて何人にも対抗できるものであるが、他人の所有権を譲渡してもその所有権移転登記は許されるものではないし、譲渡の目的達成できない契約は無効である。そうとすれば債権の譲渡行為は物権に準ずるものであるから他人の債権を譲渡しても、これはその目的達成できないから、このような契約は無効であるし、不動産を譲渡した場合の所有権移転登記は債権を譲渡した場合の債務者に対する確定日付ある譲渡通知と同じ関係にあり、いづれもその日付を確定して真の権利者を明らかにし、譲渡人と譲受人の共謀などにより日付をさかのぼらせることを防止するためのものでもあり第三者に対する取引安全保護のための強行規定であるから、真の権利譲渡がないのに後日第三者に対する対抗要件を得るために前もつて確定日付を受けておくようなことは許されないものである。譲渡人は譲受人に他人の債権を譲渡し、その譲渡の旨を確定日付ある証書をもつて債務者に通知することは許されるものではない不動産の場合は法務局でこのような場合の登記は許さないが、債権の場合はその性質上譲渡人が債務者に対し確定日付ある譲渡通知をすればよいのでその手続は簡易にできるが許されないことをしても効力が生ずるものではない。

そうとすれば須田きみは補助参加人に他人の債権(上告人所有の本件債権)を譲渡し、被上告人に対し確定日付ある証書をもつてその譲渡の通知をし、そのころこれが到達したことが認められても、このような債権譲渡に左右されることなく上告人は第二の差押、転付命令によつて本件債権を取得したのに原判決は前記判断によりこれを認めないのは違法である。そしてこの違法が判決主文に影響しているのは明らかである。〈後略〉

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